

M&A(Mergers and Acquisitions=企業の合併・買収)市場は、ここ数年で急速に拡大しており、日本国内でも年間4,000件以上のM&Aが行われるなど、その重要性は増すばかりです。企業の存続や成長、後継者問題の解決手段として活用されるM&Aは、もはや一部の大企業だけのものではなくなり、中小企業にも広がりを見せています。
こうした流れの中で、M&Aを支援する専門職「M&Aアドバイザー」の需要も高まっています。従来は証券会社、銀行、M&A仲介会社といった組織に所属して働くのが一般的でしたが、近年ではフリーランスとして独立し、柔軟な働き方を選ぶアドバイザーも増加傾向にあります。
このような「フリーランスM&Aアドバイザー」という新しい働き方には、自由度や高収入といった魅力がある一方、独立ならではの課題も存在します。この記事では、「ハイジョブコネクト」の転職ノウハウと業界知見をもとに、M&Aアドバイザーがフリーランスとして働くメリット・デメリット、必要なスキル、案件獲得方法などを網羅的に解説します。
M&Aアドバイザーとは、企業同士の合併や買収を円滑に進めるためのサポートを行う専門職です。具体的な業務は多岐にわたり、以下のような内容が含まれます。
特に中小企業M&Aにおいては、売り手側経営者の不安や心理的な葛藤を受け止める「寄り添い力」も求められるため、金融や法律の専門性だけでなく、高い人間力と交渉力が不可欠です。
従来のM&Aアドバイザーは、金融機関やM&A仲介会社に所属し、チーム体制で動くことが一般的でした。一方で、フリーランスとして活動する場合、個人で案件を受ける形となるため、働き方に次のような違いが出ます。
項目 | 組織所属 | フリーランス |
---|---|---|
案件の獲得方法 | 自社で獲得・割り当て | 自身で営業・提携先からの紹介 |
報酬体系 | 固定給+インセンティブ | 成果報酬型(完全歩合など) |
労働時間 | 所属企業のルールに準拠 | 自由に調整可能 |
チーム体制 | 分業・サポートあり | 原則ひとりで完結 |
このように、自由度は増すが自律性も問われるのがフリーランスという働き方です。
背景には、M&A案件の多様化と人材の流動化があります。
また、独立支援型エージェントや業務委託案件の増加により、個人がM&Aアドバイザーとして活動するための土壌が整ってきたことも大きな要因です。
M&Aアドバイザーがフリーランスとして働くことには、従来の組織内勤務では得られない多くの利点があります。働き方の自由度だけでなく、キャリア形成や収入面でのメリットも存在し、近年は経験豊富なアドバイザーが「独立」を選ぶ事例も増えています。
フリーランスになることで、勤務時間や働く場所に縛られず、柔軟な働き方が可能になります。とくに、次のような環境的な自由を得られる点は大きな魅力です。
このような自由度の高さは、ライフステージに応じた働き方を選びたいアドバイザーにとって大きな価値となります。
フリーランスであれば、特定の企業や業種に縛られず、複数の案件や顧客に関与することが可能です。たとえば、
といった多様なケースに触れることで、業界知見や交渉の引き出しが増え、アドバイザーとしての市場価値が飛躍的に高まる可能性があります。
組織所属では年収に上限がある場合も多いですが、フリーランスでは成果報酬型の案件を複数こなすことで、年収2,000万円以上を実現することも現実的です。
特に次のような案件は、高報酬を期待できます。
案件タイプ | 報酬レンジ(目安) |
---|---|
中規模M&A(譲渡金額5億円以上) | 300〜800万円/件 |
クロスボーダー案件 | 500〜1,200万円/件 |
デューデリジェンスのみ | 50〜200万円/件 |
このように、自身の得意分野や関心に応じて高付加価値案件に集中できるのもフリーランスの特権です。
フリーランスは自分で案件を選ぶ立場にあります。したがって、自身の経験や知識を活かせる領域に特化しやすくなります。
このように、「専門性×フリーランス」の掛け算で、自分だけのポジションを築くことができます。
自由で高報酬も目指せるフリーランスの働き方ですが、その裏には会社員時代とは異なる厳しさやリスクも存在します。成功しているフリーランスM&Aアドバイザーほど、これらの課題と真摯に向き合い、対策を講じているのが実情です。
組織に所属している場合は、会社が案件を用意してくれたり、営業専門のスタッフが商談を担うことが一般的です。一方、フリーランスはすべて自力で案件を獲得する必要があります。
これらをすべて一人でこなすには、営業力・提案力・信頼獲得のためのコミュニケーション能力が必要不可欠です。
「技術や知見には自信があるが営業が苦手」という方は、案件紹介型プラットフォーム(ハイジョブコネクトなど)の活用が有効です。
フリーランスは、毎月の安定収入が保証されているわけではありません。案件の成立時期やボリュームによって、収入は大きく変動します。
月 | 案件成約数 | 報酬(概算) |
---|---|---|
4月 | 1件(小規模) | 約60万円 |
5月 | 0件 | 0円 |
6月 | 2件(中規模) | 約400万円 |
このように、「数か月ゼロ→一気に大きく収入」という形も珍しくありません。さらに、交通費、打ち合わせ費用、ソフトウェア利用料などの経費も自己負担となるため、キャッシュフローの管理能力が必要です。
また、税務処理や社会保険の手続きも自分で行う必要があるため、会計知識の基礎や顧問税理士の確保も検討すべきポイントです。
M&Aは複数の関係者(財務・法務・税務の各専門家や経営者)と連携して進めるケースが多く、個人で完結しない業務が多いのが特徴です。
組織に所属している場合は、社内に法務部や会計チームが存在しますが、フリーランスの場合は、以下のような外部ネットワーク構築が欠かせません。
これらの「周囲との連携体制の構築」も、フリーランスとしての信頼性を左右します。
M&A案件は、クライアントの企業秘密や財務情報に深く関わるため、守秘義務の徹底が求められます。フリーランスという立場上、以下のような点が特に注意されます。
とくに最近では、顧客企業が「個人のアドバイザーとの契約」に慎重になるケースも見られるため、信頼感を損なわない対応や行動が必要です。
フリーランスM&Aアドバイザーとして成功するためには、金融・法律の知識だけでなく、営業やブランディングといった「ビジネスパーソン」としてのスキルも不可欠です。ここでは、独立前に身につけておくべきスキルや事前準備について解説します。
M&Aアドバイザーに求められる基本的な専門性は、以下の3領域に集約されます。
領域 | 必要な知識の例 |
---|---|
財務 | 企業価値評価、財務3表の読解、資金調達スキーム |
税務 | 事業譲渡における税務影響、株式譲渡と消費税の違い |
法務 | 契約書作成、表明保証、独禁法・会社法への対応 |
特にフリーランスの場合、これらの知識を誰かが補完してくれるという前提は通用しません。中小企業のM&Aであれば、アドバイザー一人が買収構造からクロージングまでをサポートすることもあるため、各領域において「一定以上の実務理解」が必要です。
フリーランスは、案件の獲得からクロージングまでを一気通貫で行う存在です。したがって、「話せる力」や「納得させる力」も極めて重要です。
これらは、専門知識以上に成約率に直結するスキルといえます。社内会議とは異なり、経営者レベルの商談をリードする場面が多いため、普段から話し方や説明の順序、質問力を意識することが重要です。
組織の看板がなくなる代わりに、フリーランスにとっての「名刺」は、自分自身の経歴・実績・信頼です。
これらを整備するためには、ポートフォリオ作成・LinkedInの整備・登壇実績の可視化などが有効です。特に最近では、Web上での信頼形成が大きく影響するため、「自分を商品化する視点」が求められます。
フリーランスになると、案件単位で契約を結ぶことになります。その際、曖昧な契約内容や報酬設計では、トラブルの元となりかねません。
これらの観点を押さえた契約実務の知識を持っておくことで、自分自身のリスクを抑えつつ、プロフェッショナルとしての信頼性を高めることができます。
フリーランスとしてM&A支援に携わるには、安定して案件を獲得し続ける体制づくりが欠かせません。この章では、案件獲得の主要ルートと、報酬・案件単価の実態について解説します。
フリーランスM&Aアドバイザーにとって、独立直後の最大の壁は「営業リソースの不足」です。その課題を補ってくれるのが、M&A業界特化型のマッチングサービス「ハイジョブコネクト」のようなプラットフォームです。
これらのサポートがあることで、営業活動に時間を割けないフリーランスでも、実務に集中しながら複数案件を並行処理することが可能になります。
過去に在籍していたM&A仲介会社や金融機関、または元同僚・クライアントとの人的ネットワークは、案件獲得の宝庫です。信頼関係がすでに構築されているため、以下のような流れで仕事につながるケースが多くあります。
実際、多くのフリーランスアドバイザーが、初期案件のほとんどを人脈経由で確保しています。名刺管理や定期的な近況報告は、独立後も継続して行いたい習慣です。
近年では、オンラインでの情報発信を通じて、認知度や信頼を高めるアドバイザーも増えています。
こうした活動を通じて「○○分野の専門家」としての立場を築くことで、企業や士業側からの引き合いが自然と発生するようになります。
フリーランスM&Aアドバイザーの報酬は、基本的に成果報酬型であることが多く、着手金+成功報酬の形式で設計されます。案件規模や関与の深さにより、報酬は大きく変動します。
案件種別 | 着手金(目安) | 成功報酬(目安) | 特徴 |
---|---|---|---|
小規模事業譲渡(譲渡金額~1億円) | 10〜30万円 | 100〜300万円 | 地方企業の後継者不在案件など |
中規模M&A(1〜10億円) | 50〜100万円 | 300〜800万円 | 成約まで半年〜1年の案件も多い |
クロスボーダー案件 | 100万円以上 | 500〜1,200万円 | 英語対応や税制知識が求められる |
このように、年収1,000万円~2,000万円以上も現実的な水準である一方、1件も成約しなければ報酬ゼロという厳しさもあります。複数の案件を同時に管理し、安定的な成約を出すマネジメント能力が求められます。
フリーランスとして独立するだけでは、安定したキャリアにはつながりません。長期的に活躍し続けるには、スキルだけでなく「信頼」「継続性」「アップデート」を意識した行動が求められます。ここでは、実際に成功しているアドバイザーに共通するポイントを紹介します。
成果を出しているフリーランスには、以下のような傾向が見られます。
中でも、「この人にお願いしたい」と思わせる一貫した姿勢と対応力が、紹介や再依頼につながりやすくなります。
M&A業界は常に変化しています。税制改正、法改正、業界再編などにより、過去の常識が通用しなくなることもあります。そのため、継続的なインプットが必要です。
また、ITツール(CRM、契約書管理、会計ソフトなど)への理解も、案件効率を左右する要素のひとつです。業務を効率化しつつ、対応力を高めましょう。
成約直前でトラブルになったり、報酬支払いが滞ったりするケースは、契約時の取り決め不足に起因することが多くあります。
可能であれば、弁護士に契約書のドラフトを確認してもらうことで、トラブル予防の精度をさらに高められます。これは、信頼性を担保する行動でもあります。
案件の紹介や条件調整を行ってくれるエージェント(例:ハイジョブコネクト)との関係性も、フリーランスとしてのキャリアを支える大きな柱です。
信頼されるアドバイザーは、エージェント側も「安心して紹介できる人材」として優先的に案件をアサインする傾向にあります。双方向の関係構築を意識しましょう。
M&Aアドバイザーとしてのキャリアを考えるうえで、常勤(正社員)として働くか、フリーランスとして独立するかは、大きな分岐点となります。どちらが優れているというよりも、自分のライフステージや価値観、目指す働き方に合っているかどうかが重要です。
キャリアの選択は、年齢やライフスタイルの変化によっても大きく影響を受けます。
年代 | 常勤向きの傾向 | フリーランス向きの傾向 |
---|---|---|
20代 | 組織での経験・育成機会が豊富 | 専門性が未熟なため、まだ独立は早い |
30代 | 管理職登用や責任あるポジションを目指せる | 一定の実績・人脈があれば独立も可能 |
40代 | 安定した収入・家族との両立を重視 | 実績・専門性を武器に独立で高収入も可 |
50代以降 | 管理職や顧問的な立場で貢献 | 引退後のリタイア前キャリアとして副業的に活動も可 |
このように、「どちらかを選ぶ」のではなく、タイミングによって柔軟に切り替えていく戦略も有効です。
実際、現場では「まずは仲介会社や金融機関に常勤で所属し、ノウハウと人脈を得た後に独立する」というステップを取るアドバイザーが増えています。
このように、「キャリアの土台を常勤で築き、その後の自由な働き方に活かす」という選択肢は、特に30代後半以降のアドバイザーにとって現実的なルートです。
最後に、どちらの働き方にもメリットとリスクがあることを前提に、自分の重視したい要素に合わせて選択する視点が大切です。
評価軸 | 常勤 | フリーランス |
---|---|---|
安定性 | 高い(月給・社会保険) | 低い(案件ごとに変動) |
自由度 | 低め(勤務時間・勤務場所) | 高い(働く時間・場所の選択) |
収入の上限 | 比較的固定される | 成果によって青天井 |
成長機会 | 社内教育・OJTが豊富 | 実戦を通じた成長が中心 |
人脈形成 | 社内・関連会社中心 | 業界横断的に広がる可能性大 |
「安定を求めるフェーズ」「自由に挑戦したいフェーズ」を意識し、自分の人生設計に合わせて柔軟に選べるようにしておくことが、長期的なキャリア構築のカギとなります。
M&Aアドバイザーという職業は、かつては金融機関や大手仲介会社の専属職というイメージが強いものでした。しかし現在では、働き方の多様化と市場ニーズの拡大により、フリーランスという新しい選択肢が現実的かつ魅力的なキャリアパスとなっています。
フリーランスとして活動することで得られる「自由」「専門性」「高報酬」といったメリットは、組織内勤務では得られない貴重な価値です。一方で、営業力や交渉力、自己管理能力といった独立ならではの責任やリスクも伴います。
本記事を通じてお伝えしたとおり、フリーランスのM&Aアドバイザーには以下のような可能性が広がっています。
「どこに所属するか」ではなく、「どう生きるか」を軸にしたキャリア設計ができる時代において、フリーランスという選択肢は非常に合理的です。
ハイジョブコネクトでは、M&A業界に特化した転職・業務委託支援を行っており、フリーランスとして活動したいアドバイザーの方々を多方面からサポートしています。
「今すぐ独立」とまでは考えていない方でも、今後の選択肢の一つとして情報収集を始めることが、未来のキャリアを広げる第一歩となります。