

M&A(Mergers and Acquisitions)の業界は、企業の命運を左右する取引に関わる極めて専門性と責任の高い領域です。そのため、業務に携わる人には、単なる知識以上の「資質」や「姿勢」が強く求められます。この章では、M&A業界において長期的に活躍する人材が持っている特徴を、3つの観点から詳しく解説します。
M&Aの実務では、企業価値の評価や財務モデルの作成、複雑な契約書の読み解きなど、論理的な思考能力が常に求められます。
企業買収の際には、「その企業はいくらの価値があるのか?」という問いに答える必要があります。その評価にはDCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)やマルチプル法などが使われ、これらを理解し応用するには論理的な思考が不可欠です。感覚や印象に頼らず、構造的に物事を捉え、数字の裏にある意味を読み解く能力が求められます。
M&A案件では、財務データ、法務リスク、業界動向など、さまざまな情報が錯綜します。それらを整理し、関係者に分かりやすく伝える「要約力」「フレームワーク活用力」が成果に直結します。ExcelやPowerPointのスキルはもちろん、情報の抽象化と具体化を行き来できる柔軟性も重要です。
M&Aは「人の仕事」です。オーナー企業の経営者、買収先、法律事務所、会計事務所、ファンドなど、さまざまな関係者とやり取りを重ねる中で、言葉の力は非常に重要になります。
M&Aの現場では、利害がぶつかり合う場面も多くあります。そんな時に求められるのは「感情のコントロール」と「事実に基づいた会話」です。交渉相手の意図を汲み取りながら、冷静に論点を絞り、合意形成に導くスキルが必要です。
相手の主張を否定せずに取り入れつつ、自社やクライアントの利益も守る。このバランス感覚が問われます。交渉術としては「BATNA(代替案)」を常に意識し、交渉が決裂しても次の選択肢を提示できるよう準備する力も不可欠です。
M&A業務は成功すれば大きな達成感が得られますが、そのプロセスには相当なプレッシャーとタスクの多さが伴います。
納期は短く、関係者は多く、常に変動する状況下で案件を進めるには、自分を律する力が必要です。指示を待つのではなく、常に一歩先を読み、行動できる「自律型人材」が重宝されます。特に中堅〜シニアポジションでは、こうした自律性の有無が成果に直結します。
並行して複数案件を抱えることも多く、時間管理は必須スキルです。「今、何に最も時間を割くべきか」を常に考え、優先順位を判断する能力が求められます。手帳やタスク管理ツール、SlackやNotionなどのデジタルツールを駆使している人も多く見られます。
M&A業界において、学歴や資格よりも「どのような業界経験を持ち、どのようなスキルを培ってきたか」が重視されるケースが多くあります。これはM&Aが極めて実務的な領域であり、論理と感情のバランスを取る「現場力」が問われるためです。ここでは、業界ごとに異なる経験の活かし方と、転職者が身に付けておくべきスキルについて整理します。
M&A業界には金融・会計・法務など、さまざまなバックグラウンドを持つ人材が集まります。
銀行や証券会社で法人営業をしていた人は、財務分析力や決算書の読み解きに強く、企業価値評価の場面で即戦力となります。また、既に経営層との接点を持っていた場合、案件のソーシングにも優位性があります。
戦略コンサルや総合コンサル出身の人材は、仮説思考や課題解決型アプローチに長けており、PMI(買収後の統合作業)フェーズや、バリュエーションに基づく提案資料の作成などで高い成果を出します。
たとえば製造業やIT業界などで事業運営の経験がある人は、売却企業側(セルサイド)との信頼構築において説得力があります。現場の業務や文化を理解した上での提案ができるため、買い手企業とのミスマッチを防ぐ重要な存在になります。
M&A業界に初めて挑戦する人が強化すべきは、3つのスキル群です。
PL(損益計算書)・BS(貸借対照表)・CF(キャッシュフロー計算書)の3表が読めるようになることは必須です。書籍やWeb学習サービス(Udemy・ストアカなど)で短期間で習得することが可能です。
M&Aでは契約書のチェックや弁護士との連携が日常的に発生します。リーガルマインド(法的な思考)が求められる場面では、条文の趣旨やリスク解釈ができるようにしておきましょう。
特に中小企業のM&Aでは、創業者の人生観や感情が取引の成否を左右します。決してテクニカルな説明だけで押し切らず、「この人になら任せたい」と思ってもらえる人間性が求められます。
経験やスキルは見えにくい資産ですが、履歴書・職務経歴書・面接で明確にアピールすることが可能です。
Situation(状況)、Task(課題)、Action(行動)、Result(結果)に沿って、自分の経験をエピソード形式で語ることで、面接官にも理解しやすく伝えることができます。
過去の営業経験であれば、「年間売上●億円」「既存顧客へのクロスセル率●%向上」など、数字で語れる内容は積極的に盛り込むべきです。M&A業界は「成果主義」の側面があるため、定量的な実績のある人材は評価されやすくなります。
M&A業界は、高年収・高成長という華やかなイメージの裏に、極めてハードな側面を持つ現場です。そのため、表面的なスキルや経歴だけでは長く活躍することは難しく、特定の素養やスタンスを持っている人材が評価され続けます。ここでは、業界内で長期にわたり成果を出し続けているプロフェッショナルたちの共通点を見ていきましょう。
M&Aは案件が成約するまでに平均で半年〜1年、場合によっては数年を要する「長期戦」です。
途中で破談になることも珍しくなく、1件も成約できないまま年度を終えることもあります。そうした中でも淡々と取り組み続けられる「メンタルの耐性」は非常に重要です。焦らず、着実に積み重ねる姿勢こそがキャリアを支えます。
特に未経験者の場合、最初の1~2年は成約実績が出にくいものです。短期的な成果よりも、「仕組みを理解し、プロセスを回すこと」に意識を向けられる人は、成長速度が加速し、数年後に爆発的に伸びる傾向があります。
M&Aは会計・税務・法務・業界知識など、幅広い分野の知識が必要とされる複雑な業務です。
「知らないことを素直に学べる人」「自分で勉強できる人」が評価されるのは、知識のアップデートが早い業界だからです。とくに法改正や市場トレンドに関して、アンテナを高く張れる人材は、信頼を集めやすくなります。
定期的に専門書を読み込んだり、M&A専門の勉強会に参加することは、業務の幅を広げるだけでなく、他社との差別化にもつながります。たとえば「医療業界に強い」「飲食店M&Aに詳しい」といったポジショニングは、個人のブランド形成にも寄与します。
成約のカギは「この人に任せたい」と思ってもらえる信頼関係の構築です。
単にロジックで説得するのではなく、売却を考える経営者の不安や悩みに寄り添い、気持ちの整理をサポートできる姿勢が求められます。高度なビジネスパーソンである前に、一人の人間としての信頼を勝ち取ることが、成約率を大きく左右します。
優秀なアドバイザーほど、「売ってやろう」という気持ちを前面に出しません。むしろ、「必要ないならやらない方がいいですよ」と助言できるくらいのスタンスが、逆に信頼を生み、結果的に選ばれるのです。
M&A業界は、未経験からの転職者にも門戸が開かれています。しかし、参入障壁が低い一方で、成果を出すには戦略的な準備が不可欠です。未経験者が最短距離で活躍するために取るべき具体的なステップを紹介します。
未経験とはいえ、完全なゼロベースでは成長が遅れてしまいます。最低限の基礎を身につけておくことで、スタートダッシュが切れます。
貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)、キャッシュフロー計算書(C/F)の構造は、M&Aにおける企業価値評価や財務分析のベースになります。入社前に「簿記3級レベル」程度の知識があると望ましいです。
「株式譲渡」「事業譲渡」「合併」など、基本的なM&Aの手法と、それぞれのメリット・デメリットを把握しておくことも大切です。仕組みを理解しておくだけで、業務中の会話の吸収力が違ってきます。
未経験者の選考では、「これまでの経歴」よりも「業界への熱意と再現性」が問われます。
前職が営業やコンサルであれば、「課題を発見し、提案し、信頼を得る」という一連のスキルはM&Aに直結します。定量実績(前年比○%成長など)と共に、信頼構築力を具体的にアピールしましょう。
「なぜM&Aなのか?」を自分の言葉で語れることが重要です。たとえば「事業承継の課題に興味を持った」「中小企業支援に携わりたい」という動機に加え、業界動向や業務内容の理解を交えて語れると評価が高まります。
実際にM&A業界に入った後、最初の1年の過ごし方が、その後のキャリアを大きく左右します。
配属後は、社内で活躍している先輩やマネージャーを観察し、思考・行動パターンを徹底的に真似ることが成長への近道です。「メモの取り方」「ヒアリングの深さ」「資料の構成」など細部を学びましょう。
どんなに初歩的な資料でも、「上司に一度見てもらう」「指摘をノートにまとめる」などの行動は、自分の成長を飛躍的に促進します。受け身にならず、自ら課題を取りにいく姿勢が鍵です。
M&A業界への転職を目指す際に、「どのエージェントを使うか」は重要な判断材料です。業界に特化した転職支援を受けられるサービスは限られています。ここでは、ハイジョブコネクトの活用法と、そのメリットについて解説します。
ハイジョブコネクトは、M&A業界に特化した転職支援サービスであり、他にはない独自の強みを持っています。
M&A業界の実務経験者や、金融・コンサル出身のキャリアアドバイザーが在籍しており、業界知識に基づいた支援が可能です。「どのポジションが向いているか」「どの企業が成長性が高いか」など、深い情報提供が受けられます。
特に中堅〜成長フェーズのM&Aファームや、事業会社のM&A部門など、一般公開されない求人の取り扱いも豊富です。競争が少なく、自分に合ったポジションを狙いやすくなります。
ハイジョブコネクトのサービスは、登録から内定まで一貫して無料でサポートされます。初めての転職でも安心して利用できます。
事前に職務経歴書のたたきを用意し、これまでの経験や転職理由、M&A業界への志望動機を整理しておくと、面談の質が高まります。また、具体的に気になっている企業や職種を挙げることで、よりマッチ度の高い提案が可能になります。
ハイジョブコネクト経由で転職した求職者には、異業種・未経験から成功したケースも多くあります。
前職では法人営業として実績を上げていたが、より経営に近い仕事をしたいという思いでM&A業界を志望。キャリア面談で適性を見極めたうえで、教育制度が整った企業を紹介され、1年目から2件の成約を実現。
戦略系コンサルティングファーム出身。M&Aにより特化した実務経験を積みたいという希望を叶え、ファンド傘下のM&Aアドバイザリーファームに転職。現在はクロスボーダー案件にも携わる。
M&A業界は高い専門性と倫理観が求められる一方で、成長機会と報酬面でも非常に魅力的な業界です。今回ご紹介したように、M&A業界に向いている人には「高い論理的思考力」「人との信頼構築に長けている」「継続的な学びの姿勢がある」といった特徴があります。未経験からでも、自身の資質と意欲次第で十分に活躍できる環境が整っており、業界は今後も拡大が期待されています。
また、自己分析や適性理解を深めるには、専門の転職エージェントであるハイジョブコネクトを活用するのが効果的です。M&Aに特化したアドバイザーによるサポートで、適職との出会いがスムーズになり、理想のキャリアを実現する近道になります。
本記事が「M&A業界に向いている人」の特徴を知り、自分自身と照らし合わせるきっかけになれば幸いです。